グラフィック制作ソフトウェアの Affinity がバージョンアップし、バージョン3になりました。Canva社Affinty を買収して初めてのアップグレードです。
あらゆる部分に変更が加えられました。しかし Affinity の公式ウェブサイトには変更点についてまとまった情報がなさそうです。
この記事では Affinity V2 から V3 での変更ポイントを記します。

なお Affinity V3 のダウンロードは Affinity公式サイト から行えます。無料でダウンロード&利用が可能ですが、Canvaアカウントの作成とログインが必要です。

コンテンツ

YouTube動画での解説

2025年11月07日(金) YouTubeに解説動画を公開しました。内容はこのブログの中身とほぼ同じです。 YouTube上で実演したチラシ制作のファイルはこちらからダウンロードできます。

V2からV3の進化ポイント

無料になった

ライトユーザーや、はじめて Affinity に触れる人にとっては、これが最もインパクトのあるニュースでしょう。10月30日に開かれた Canva Keynote の講演でも「クリエイティブを自由に(Creative Freedom)」というスローガンのもと、永久に無料であることをアピールしていました。
元々 Affinity V2 は 26800円で販売されていました。ですが、ほとんどのユーザは定価で購入したことはないでしょう。頻繁にセールが行われており、Serif社がCanva社に買収された後に一時的に88%OFFの2980円で販売された事もあります。
Adobe Creative Cloud が年間102960円に対して、Affinity は無料。より多くのユーザがAffinityを使う事になるでしょう。

ファイル形式が .af となった

今までの Affinity では .afdesign、.afphoto、.afpub という拡張子でした。長い。これが全てのファイルで .af に変更・統一されました。

Affinity V1、V2のバージョンから Affinity V3 (ソフトウェアの表記名では affinity) にデータを移行すると、過去のバージョンでは開くことが出来なくなります。過去のファイルのバックアップをとった状態で、V3に移行しましょう。

Designer、Photo、Publisher が統合された

既存の Affinity ユーザにとっては最も大きな変更ですが、Affinityに触れた事のない方のために少し解説します。

もともと Affinity はロゴなどのベクターデータを扱う Affinity Designer、写真などのラスターデータを扱う Affinity Photo、テキスト処理・印刷を司る Affinity Publisher の3つのソフトウェアがありました。この3つのソフトウェアは緻密に連携しており、お互いを補完しあう役割を果たしていました。しかし時系列としては、Affinity Publisher が最も遅くにリリースされており、Affinity Publisher には StudioLink という3つのソフトウェアをシームレスに連携する機能がありました。
ざっくり言うと「まず Affinity Publisher で最終出力サイズを想定したファイルを作成する。そして Affinity Publisher 上でワンボタンで Affinity Designer と Affinity Photo を呼び出して使う」みたいなワークフローでした。Adobe に言い換えると「InDesign でファイルを作れば、InDesignの中でPhotoshopモードとIllustratorモードを呼び出して作業できる」みたいなイメージです。
小さなタスク…… たとえば「写真画像をちょっと補正したい」というような単発仕事なら Affinity Photo だけで完結します。全てにおいて Affinity Publisher を経由する必要はありませんが、ファイル数やページ数の多い大規模なファイル作成の場合はよく Affinity Publisher を起点としてファイル管理をしていました。

今回の Affinity V3 では従来の Designer / Photo / Publisher の3つのモードが統合され、事実上 Affinity Publisher をより進化させた形になったと言えます。

UIの大幅改善。ツールパレットの改変とカスタマイズ性向上

前段の Designer / Photo / Publisher の統合にも関連する話と言えますが。強引に3つのソフトウェアを合体したら、ツール類がごちゃごちゃになってしまいます。そこで Affinity V3 ではツールパレットが整理され、カスタマイズ性も向上しました。

ツールをグループ化してまとめる事もできます。

コンテキストツールバーも移動できるようになりました。これは今まで画面上部に固定されていたメニューを、画面上の好きな位置に移動できる機能です。液晶タブレットユーザにとって有用な機能です。液晶タブレットで画面上部のメニューボタンを操作するとき、腕の移動距離は大きいし誤タップもしやすい。画面上部にあったメニューを画面下部に移動することで、これらのミスを回避できるようになりました。

編集したツールパレットや画面レイアウトはスタジオプリセットとして保存し、自由に呼び出すことができます。Affinity V2 にも画面レイアウトのプリセット機能はありましたが、より強化された形と言えるでしょう。

設定画面などのUIも整理され、視認性が上がりました。

あくまでも僕の私見ですが。
Designer / Photo / Publisher の統合と、それに伴うUI大幅改善。これが今回の目玉であり、非常に大きなアップデートだったと思います。
もともとの Affinity V2 の UI は悪い訳ではなかった。しかしツールのカスタマイズ性の問題で手間になるシーンが少なからず存在しました。これらが解決しました。
ツール類のUIが整理された事で、アップデートで機能が拡張されていく土台ができた。と捉えています。

書き出しペルソナの改編とクイックエクスポートの追加

書き出しペルソナが担当していた画像出力について整理され、ソフトウェア全体を通してアクセスしやすくなりました。

いままでの Affinity V2 には [書き出しペルソナ] というモードがありました。これは JPG や PNG といった、画像の最終出力を担う機能です。
書き出し用のプロファイルを作成し、ワンボタンで複数種類の画像を書き出せました。たとえば、WEB制作において低解像度用画像・高解像度用画像を同時に出力する。といった用途で使われました。
従来の [書き出しペルソナ] は [スライススタジオ] と名前を変え、移動しました。

そして [書き出しウィンドウ] は強化されUIも刷新されました。
[書き出しウィンドウ] ではプロファイルを選択して高度な書き出し設定を行います。出力ファイルの種類(JPG/PNG/PDFなど)や、リサイズ、ICCプロファイルの選択、画質の設定などを行えます。

さらに新しく [クイックエクスポート] が追加されました。
[クイックエクスポート] では、現在選択中のレイヤーのみをワンボタンで書き出す機能です。書き出しファイル名はレイヤー名を引き継ぐので、適切なレイヤー名を記しておくと手早く処理ができそうです。

ちょっと昔話をば。 [書き出しペルソナ] は Affinity V1 時代の目玉機能でもありました。2015年頃の Adobe Creative Cloud は、画像の書き出し機能が不安定でした。
そのため軽快で安定した画像書き出しを行う Affinity が評価された時期がありました。初期の Figma が好評だったのも、Affinityと同じく書き出し機能の充実さにあったと記憶しています。
当時はスマホとPCのマルチデバイス向けデザインの普及期。あらゆる解像度用に画像生成するニーズが増えていました。そんな時代の流れを捉えた、Affinity初期の代表的な機能でした。

今回のアップデートで、画像書き出し関連の機能も整理され、使いやすくなりました。

epub書き出し対応

epub書き出しが可能になりました。epubとは電子書籍で用いられるフォーマットです。
固定レイアウト・リフローレイアウト両方の出力に対応しています。
[メニューバー] → [ファイル] → [書き出し] → [エクスポート] による 書き出しウィンドウで選択し、出力できます。

Canva への書き出し対応

Affinity から Canva にファイル書き出しが可能になりました。
Affinity で作成したファイルを Cavna にアップロードし、その後は Canva 上でファイル編集ができるようになっています。

[メニューバー] → [ファイル] → [書き出し] → [エクスポート] にて書き出しウィンドウから呼び出す。もしくは画面右上にある [クイックエクスポート] から [Canva] を選択して利用できます。

注意点もあります。一度 Canva にアップロードしたファイルは Affinity に差し戻して編集する事はできません。そのため Affinity で画像作成した場合は、ローカルに.afファイルでちゃんと保存しておく必要があります。

フォントについても対策が必要です。Canva と Affinity ではフォントデータは別の場所で保存・管理されています。ですので、Affinity で作成したデータに独自のフォントを導入している場合、Canva上では正常に読み込まれずフォントが置き換えられてしまいます。Canva にデータを移植することを想定するなら、あらかじめ共通フォントでデータを作成する必要があるでしょう。

着色ブレンド

グラデーションをよりキレイに作成できるようになりました。
グラデーションツールを選択時、画面上部の [コンテキストツールバー] → [着色ブレンド] のオプションをONにすると発動します。

色相環を曲線的に経由する事でグラデーションの彩度が落ちず、色が濁らなくなります。多くの場面で活用できる機能なので、デフォルトでONにしておくと良いでしょう。

ただし着色ブレンドはグラデーションツールからしかアクセスできないようです。レイヤーエフェクト機能においては、着色ブレンドを使えないようです。

グラデーションメッシュ

グラデーションメッシュ機能が追加されました。オブジェクトのパスを選択し、特定の領域のみにグラデーションを付与する機能です。
Adobe Illustrator では古くから搭載されていた機能ですが、Affinity には今までありませんでした。

もともと Affinity は画像の歪み・傾きといった、オブジェクト変形機能が貧弱であり、メッシュワープ機能が実装されたのも2023年と最近です。
この方向の強化は嬉しいポイントである一方「やっとか」という思いもあります。

調整ブラシとフィルタブラシツール

特定の部位にだけエフェクトを付与する調整ブラシが追加されました。今までマスクを切ってたのが簡略化されたと言えます。
レタッチにおいて有用なツールだと思います。たとえば写真の一部分の彩度を調整したり、モザイクやぼかしをかけて素早く隠蔽処理ができます。

ところが、重ねがけしたときに挙動が重たいです。キーボード・マウスの入力を一切受け付けなくなったので、PCを強制終了して対処しました。
マシンの負荷を見ながら試すと良いでしょう。調整ブラシツールはデフォルトではインク色が透明ですから、誤ってグリグリかけまくると、OSを巻き込んでクラッシュするかもしれません。(おま環の可能性はあります)

ライブフィルターのグリッチ

ライブフィルターに [グリッチ] が追加されました。ゲームのバグのような乱れた演出を付与できます。
このエフェクトは方式を選択する事ができ、結果が多様です。

  • グリッチフィルター
    • 収差(ゆがみ)
    • 収差(オフセット)
    • シュレッド
    • ブラスト
    • スライス
    • ノコギリ歯
    • ゆがみ
    • シュレッド(カラー)
    • ブラスト(カラー)
    • スライス(カラー)
    • ゆがみ(カラー)
    • 量子化
    • スクランブル
    • ファズ
    • 波紋

いままでの Affinity では方式1つにつき1つのライブフィルター項目が用意されるケースが多かったです。グリッチフィルターのUIはいままでと違い、ウィンドウ内で効果を選んで、値を設定する流れです。
僕はグリッチフィルターのUIは、もう少し整理されるべきだと思います。

画像トレース機能

ピクセル画像をベクター形式にトレースする機能です。
画像をベクター化することにより、画像の拡大・縮小に適したデータに変換できます。
[メニューバー] → [ベクター] → [画像トレース] から可能です。

上記の画像は新しい affinity のロゴのラスター画像を [ベクター画像トレース] したものです。これは i と t の文字を拡大した部分ですが、よく見ると端部が丸みを帯びてるのが分かります。
むかしの Adobe Illustrator のライブトレース機能でも、角が丸められてしまいました。それと同等の事が起きています。とはいえ高解像度のラスター画像を用意したり、シャープになるよう手作業で修正すれば十分使い物になる機能と言えます。

データマージ機能の強化

もともと Affinity Publisher にあったCSV読み込み&フィールド生成機能が強化されました。これは Excel でいうところの差し込み印刷機能のようなものです。

たとえば、会社の従業員100人の名刺を生成するとき、まずCSVファイルを用意して氏名・読み仮名・メールアドレスといった表データを用意します。次にテンプレートとなる名刺データにフィールド値を挿入します。するとワンクリックで100人分の名刺データの画像ファイルが書き出される。という流れです。

今回のアップデートで、表データをAffinity上でも閲覧・編集する事が可能となりました。いままではExcelでデータ値を修正する → CSV形式に書き出す → Affinity で読み込む という手順が必要でしたが、簡略化されたと言えます。

Canva AI の実装

  • 生成拡張
  • 生成塗りつぶし
  • 生成編集
  • ポートレートぼかし
  • 背景削除
  • 被写体選択
  • テキスト画像生成

これらは Canva AI スタジオモードで発動できます。
Adobe Photoshop におけるAI機能と酷似しており、プロンプト(命令文)を使って画像を修正します。日本語のプロンプトもスムーズに通ります。
1つの処理にあたり、待ち時間は概ね20秒程度です。この応答速度はCanva社のサーバ状態にもよるでしょう。

Canva AI は、ちょっと動作はもっさりしている感は否めず、軽快とは言いがたい。またAI被写体選択や背景削除もエッジの処理が Adobe Photoshop に比べて甘い印象を受けます。雑に使うとモヤッとした画像になりがちです。とはいえ、今まで Affinity にはAI機能自体なかったわけですから、それを考えると着実な進化だと思います。

これらAI機能は Canva に課金しないと使えません。
Canva はプランによりますが、月額1180円。年間契約の場合月額700円です。30日の無料体験期間があります。

アートボードの追加が簡単に

同じサイズのアートボードを作るとき、アイコンをクリックする事で簡単に複製できるようになりました。同サイズのアートボードを複数作成するときに便利です。

質問AI Ritsonの搭載

ヘルプAI機能 Ritsonが搭載されました。Affinityの使い方について対話形式で質問できます。

最初触ったときは「これは良い機能だ!」と思いましたが。何度か質問した結果を見るに、あんまり良い回答とは言えないように思います……。過度な期待は禁物ですね。
ナレッジがたまってきたら、もう少し賢くなってくれるのかもしれません。

[ウィンドウ] → [ヘルプ] → [尋ねる] で利用できます。

アクティベーションについて

初回の起動時に Canva のアカウントでログインが必要。ただしその後はローカルで完全に動作します。
ずっとローカルで使っていたとして、Canvaへのログイン認証が求められるインターバルが何日かについては語られていません。でも発表動画のニュアンスとしては「長期間ネットが接続されていない環境で使っても問題ない」という印象を受けました。

Canvaはオンライン動作が必須のソフトウェアですので、Affinityでオフライン作業を行い、Canvaではオンライン作業を行う。といった使い分けもできそうですね。

Affinity V1, V2ユーザ向け施策

フォントの配布

アフィニティV1/V2ユーザーへの特別な感謝 – Affinity Blog

「41種類のフォントを配布する。これは過去に Affinity を購入したユーザ限定の施策。いままでのユーザへの感謝」との事です。
まだフォント配布は告知されただけで、ダウンロードはできない模様です。

過去のAffinityアカウントと Canvaアカウントの紐付け

Affinity のソフトウェア上で [Affinity ID をリンク] から、Affinity ID のライセンスを Affinity V3 に紐付けできます。このとき、Affinity V3 は 旧来のAffinity ID(V1,V2のときのもの)と Canvaアカウント の2種類のアカウントが接続された状態となります。

Affinity ID をリンクする事で、以前 Affinity から購入したアドオンやアセットといった素材をダウンロードできます。

おそらく前述のフォント配布も Affinity ID を連携する事でダウンロードできるようになると思われます。

今後のアップデートについて

iPad版

iPad版は現在開発中。来年の早い時期にリリース予定。すでに開発は進んでいるが、まだ調整が必要とのこと。

ブレンドツール

オブジェクトをなめらかに配置しグラデーションも付与するブレンドツールは、近日実装予定だそうです。
発表動画の終盤で語られました。

スクリプト言語機能

スクリプト言語による拡張機能について告知されました。近日実装予定だそうです。
JavaScript を使ってオブジェクトに対して命令・操作する機能に見えます。この機能は Affinity V2でも「将来実装」と語られていた機能です。

縦書きは非対応で「将来的にも実装予定なし」に変更

Affinityは右から左、または垂直方向のテキストをサポートしていますか? – Affinityヘルプセンター
Affinity において縦書き機能は実装されない事が明言されました。残念です。
かつて Affinity は「縦書きの実現のため、開発を進めている」と何度もアナウンスしていましたが、それが覆されたと言えるでしょう。

ただし今回の Affinity のアップデートにより、縦書き実現の手法も増えました。Canvaは日本語縦書きに対応しているので、Affinity から Canva にファイルをアップロードすれば、Canva上で縦書きテキストを扱う事は可能です。

でもAffinityからCanvaへのファイル変換は可能でも、CanvaからAffinityへのファイル変換は不可能なので、ワークフローには注意が必要と言えます。

Affinity の縦書き機能の搭載はまだ可能性はあるらしい(追記: 2025/11/09)

コメントでご指摘いただきました。どうやら Affinity の縦書き機能については、凍結したわけではなくロードマップ上にはあるという情報です。詳しくはコメント欄の指摘をご参照ください。

Affinitry V3 のレビューと将来性

今回のアップデートは、VERY GOOD.

全体としてすごく良かったという印象です。前回の記事 Affinity V2 の販売停止と炎上、その未来 で不安な面を記しましたが、サブスク化せずにローカル & オフラインで動くソフトウェアとして Affinity V3 をリリースしてくれた。これだけで僕は高く評価しています。本当に良かった。

従来の Affinity の路線を維持した機能追加・整理がされており、プロの使用に耐えうるグラフィックソフトである事も良い点です。

Adobe CC から Affinity へ乗り換えられるのか?

「プロの仕様に耐える」とは記したものの。勘違いする方がいないように明言しておきます。Adobe Creative Cloud のほうが Affinity や Canva より圧倒的に多機能です。高い表現力を実現するツールを備え、工数削減につながる手段が Adobe にはあります。プロ用途やチーム制作では Adobe が適切なシーンが多い。Affinity で出来る事は、Adobe Creative Cloud に比べると、少なくて貧弱です。

今回のアップデートでUI周りは大幅な機能改善と改編が行われました。しかしグラフィック制作における基本機能は進化していません。たとえば次のようなものです。

  • レイヤーエフェクト機能が貧弱
  • アピアランス機能が貧弱
  • テキスト調整機能が貧弱
  • 日本語組版に関する重要機能が未実装 (縦書き、ルビなど)

とくに上記3点のレイヤーエフェクト、アピアランス、テキスト調整は、クォリティとレイヤー管理に直結する、グラフィックソフトウェアの基礎だと思います。これらの基本能力が低いので「Affinity はグラフィック表現の天井が低い」と言えます。

僕はAffinityシリーズをリリース直後の2015年頃から精力的に使っていました。チーム制作においては Adobe Creative Cloud から離れる事はできないけれど、自分の個人制作や非デザイン業のビジネスユーザに積極的に Affinity を勧め、導入のお手伝いなどもしていました。
ただプロのデザイナー目線でいうと、ここ数年 Affinity の成長に陰りを感じていました。どんどん Adobe と Affinity の性能差は開いてしまった。

いままで Adobe Creative Cloud を利用していたプロユーザーが安易に Affinity や Canva に乗り換えるのを、僕はあまり推奨しません。僕は Affinity が大好きで、Adobe の evil さが大大大嫌いです。そんな立場でありながら「安直なコストカット目的で Affinity に乗り換えるとヤケドするかも」と申し上げたい。デザインのクォリティを落とさずに Affinity に乗り換えるのは、ある意味で Adobe を使う以上の実力が必要です。
目先の “無料” に目がくらむ人への注意喚起は必要だと思います。それくらいに、Affinity と Adobe CC にできることの差があります。

とはいえ今回のアップデートと無料化は、インパクトがあると思います。
今後もっともっと Affinity と Canva の影響力が広がっていくことでしょう。

Canvaユーザは Affinity とどう向き合うべきか

僕は Canva を積極的に使ったことはありません。ですから、Canvaプロユーザの視点にはどうしてもなりえないですが、記してみます。

オンラインは Canva、オフラインは Affinity

Canvaではデータの保存・編集はネット回線があるオンライン環境でないといけません。しかし Affinity はネット回線のないローカル環境で動作します。
外出先での作業時、通信端末の残ギガ数や回線速度を気にせずに Affinity でデータ編集が完結します。

ファイルの権限はユーザが持つ

Canva はベンダーロックイン仕様が厳しい。Canvaで作成したデータを別のツールに移植するのは事実上不可能です。
しかし Affinity では作成したデータのコントロール権限がユーザにあります。
仮にCanva社がサービス終了したり、サーバトラブルやアカウントBANで使えなくなったとしても、Affinityで作成したデータは無事です。Affinity をパソコンにインストールさえすれば、何年後でも編集可能です。
そして Affinity の .af ファイルの互換性は高いわけではないが Canva よりはマシです。Affinityで作成したデータを Adobe製品や GIMPInkspace といった別ソフトウェアに移植ができます。
これこそ Affinity がかつてより大切にしていた「ユーザの主権」であり、良い思想だと僕は思います。

本部は Affinity、店舗スタッフは Canva の使い分け

デザイナーが Affinity 、非デザイナーが Canva という使い分けも良いと思います。
まず、デザイナーは Affinity でテンプレートとなるデータ作成を行い、Canvaにアップロード。非デザイナーのスタッフがCanva上で文言を変更して、出力・印刷などするという流れです。
Affinity からアップロードするときに画像の結合(ラスタライズ)を行っておけば、Canva上で編集するときに特定の要素だけが編集可能。みたいな疑似ロック状態を作れます。
Affinity ではフル編集可能な元データ。Canvaを一部編集可能なテンプレートデータ。という分離が可能になるので、わかりやすい業務フローとデータ管理・共有ができうる。
もちろん今までの Canva でも似たような事は可能でしたが、よりよく棲み分けができると言えます。

このワークフローは実店舗を複数もつ、本部と店舗の間で導入されるスタイルだと考えます。
例として複数店舗を運営する飲食店を想定してみましょう。
本社デザイナーが、ポスターやチラシの元データを作成。テンプレートとなるデータの共通部分はラスタライズして編集できないようにロック化。編集領域を制限した形でCanvaにアップロードします。
各店舗のスタッフは、店舗PCからCanvaにアクセス。Canva上で店舗名・連絡先・責任者名だけ差し替えて、店舗のプリンターで印刷。そしてマーケティング活動として頒布。といった流れです。
本部のデザイナーは各店舗分のデータを作成する手間がはぶけ、店舗スタッフはデザインデータを破壊する心配をせずに画像の修正・出力が行えます。しかもスピーディで優れたシステムです。
このやり方は別のソフトウェア…… たとえばAdobe製品でも可能ですが、トータルコストは Affinity & Canva の方が秀でています。

Affinity と Canva の連携における注意点

ワークフローにおける注意点はあります。
Affinity から Canva にデータを移行はできるが、Canva から Affinity にデータ移行はできない事は、注意です。

フォントにも気を配る必要があります。Affinity ではローカル環境のフォントデータを読み込みますが、Canva上にデータを移行する際にフォントデータは移行できません。よってCanvaにも対応したフォントを使うか、フォントの部分はカーブ化(アウトライン化)するなど、対策を行いましょう。

これらのメリット・デメリットを比較しつつ、Canvaユーザの方々もAffinityに触れてみると良いと思います。